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オープンガバメントが進める公共改革

東京大学公共政策大学院 客員教授 奥村裕一東京大学公共政策大学院

客員教授 奥村裕一

目次

  1. はじめに
  2. オープンガバメントが進める市民参加型公共改革に踏み出す
  3. これまでの公共改革政策との大同団結
  4. 参考になるEC委員会のオープンガバメントの概念
  5. オープンガバメントが進める市民参加型公共政策体系モデル
    1. オープンガバナンスの公共政策体系モデル
    2. オープンデータ実行モデル
    3. オープン意見集約実行モデル
    4. オープンサービス実行モデル
  6. 行政の新しい役割とオープンガバメントの担当部局
  7. さいごに

1.はじめに

先日、内閣官房IT推進室の電子行政オープンデータ実務者会議が「地方公共団体オープンデータ推進ガイドライン」(以下:ガイドライン)を策定公表しました。地方公共団体向けの「最初の手引書」も同時に公開しておりなかなか親切です。(詳細は、内閣官房のウェブサイトを参照)このオープンデータは、行政の持つデータを機械判読(コンピュータでデータ処理)が可能な形で誰でも使えるよう公開し、それを使って市民・NPOや企業が社会の課題に役立つようにデータを見える化したりデータを組み合わせた新しいアプリを作ったりして公共的なサービスを提供する一連の活動です。

しかし、オープンデータの認知度はまだかなり低いものです。オープンデータを推進している内閣官房が昨秋に「ガイドライン」策定に関連して行ったアンケート調査によりますと、よく知っていると回答したのは、自治体では13.7%(回答団体1750団体中239団体)、市民に至ってはわずか回答者の2.6%(1034人中27人:しかもインターネット上の調査)でした。これはオープンデータが社会にまだ定着していない表れでしょう。

この低い認知度を抜本的に高めるにはどうすればよいでしょうか。このためにはオープンデータ(そしてその行き着く先であるオープンガバメント)が市民にとってもっと身近なものになる必要があります。これまでのように①経済活性化や②官民協働による公共サービス、③行政の透明性・信頼性の向上にあると並列してその意義を説明するだけではなかなか浸透しません。また、手法から入ってまずはデータを機械判読な形でオープンにすることだと聞くとITのプロはともかく普通の人はしり込みします。市民はもちろん行政の中でもそうだと思います。

認知度アップには、オープンデータは「オープンガバメントが進める市民参加型公共改革」の第一歩であり、そこでは市民と行政の役割がこれまでとは大きく変わって、市民が主役で行政はプラットフォームになるというグランドデザインを示す必要があります。

2.オープンガバメントが進める市民参加型公共改革に踏み出す

インターネットを通じて市民と行政がぐっと身近に接することができるようになった環境を上手に活かして、市民がより積極的に社会課題の解決に参加する社会を実現するには、公共データの活用に限らず政策の決定プロセスや実行段階でも市民が積極的にかかわり、さまざまなアイデアや工夫を凝らしながら社会の課題に取り組んでいくことが必要です。

そしてこのためのプラットフォームとして行政がまずオープンになろうと宣言したのがオープンガバメントの背景にある考えです。行政データや情報(公共財的な非行政データを含みます。以下まとめて:データ)の透明性、政策形成への市民参加、市民との協働による行政サービスの提供という三拍子が揃ってオープンガバメントは完成します。

今回の「ガイドライン」で自治体にとっての意義に「地域課題の解決」の視点を入れたことは市民に近づく原点であり、大変良い方向だと思います。さらに地域にとって重要なことは、近代化・都市化が進むにつれて崩壊してきた地域コミュニティの再生です。実際にオープンデータの催しに参加した私の実感からも市民の間に新しい絆が生まれ始めており、上手に育てれば地域コミュニティの再生の大きな手段だと考えています。

ところで、市民とともに地域課題さらには社会課題(以下まとめて:社会課題)の解決に取組むという視点から考えると何が必要でしょうか。どんなことでもそうですが、ものごとを考えるときにまずデータや情報がないと何も考えられません。いい知恵も湧いてきません。社会課題の解決も同じです。これまで行政だけで取組んでいた社会課題の解決に市民とともに考えていくとなると、社会の実態を表すデータを市民とも共有して一緒に考えられる環境を整えることがまず必要です。これがオープンガバメントのうちの最初に手掛けるオープンデータです。ただ、市民や企業はオープンになったデータを使ってアプリを作ったりしているだけでは不十分です。それが地域の抱える課題にどう向き合っているのか、どの部分の解決に具体的に役立っているのかをしっかり意識して取り組むことが大事です。この手助けとなるよう、社会課題ごとに行政がまとめ役となって解決策の全体を見渡せるカタログ(政策のカタログとアプリのカタログ;アプリのない政策もあるし、複数の政策にまたがるアプリもある。全体を政策・サービスカタログとして整理。このカタログには費用対効果などの評価データも含む。)を作ってみることが必要だと思っています。カタログには行政がすでに手掛けているサービスもくまなく入れますし、オープンデータを使っているいないにかかわらず市民が手掛けているサービスも入れていきたいと思います。こうして公共サービスの全体のカタログが出来上がります。このようなカタログを市民と行政が一緒になって手掛けていくと協働のいい実例ができていくことになると思います。また、社会課題の全体を見渡したカタログも作るといいでしょう。そして、政策・サービスカタログと社会課題カタログを丁寧に付き合わせていくと、まだ対応が不足している課題もよく見えてきます(こうしたカタログはオープンデータの段階で作成し、あとで触れるオープン意見集約やオープンサービスでも利用していくように実行モデルに組み込んでみました)。

次に必要となるのが、行政自身で手掛けたほうがよいサービスか市民に任せたほうがよいのかの判断と行政自身で手掛けたほうがよいサービスについての市民の意見の反映です(これもあとで触れるオープン意見集約やオープンサービスでもそれぞれの実行モデルに組み込んであります)。このような整理の手順を踏んで、いよいよ課題解決策の具体的な設計に入っていきます。ここでも市民との協働が大変有意義です。その際に視野に入れたいのは市民と行政の電子的な情報のやりとりを可能にするデジタル環境を利用して一人ひとりの市民の実情を反映したサービスの提供です。このためにもマイナンバーが個人の安心した特定に役立つよう、うまく機能して欲しいものです。

3.これまでの公共改革政策との大同団結

振り返ってみれば、行政と市民との関係を見直す試みはこれまでも行われてきました。一つは、地方自治体レベルで市民参加・協働の推進という形で進んできた動きがあります。自治体では住民自治基本条例、市民参加。協働条例などが作られてきました。二つめは、自助・共助・公助といったスローガンに見られる阪神淡路大震災以降の災害対策やNPOの成長による福祉政策にみられる動きです。三つめは、政府が包括的にこうした動きを促進しようとした施策です。ざっと見ただけでも、「社会的責任に関する円卓会議」(2009年3月発足;担当:内閣府国民生活局)、NPOを支援し共助の精神で活動する「[新しい公共]円卓会議・推進会議」(2010年1月発足;内閣府政策統括官・経済社会システム担当)、自立した市民参加型社会を斬新な討議手法と公開方式で打ち出した「国・行政のあり方に関する懇談会」(2013年10月発足;内閣官房行政改革推進本部事務局)がありました。

しかし、「デジタル時代の公共改革」であるオープンガバメントがこれらと異なるのは、デジタル技術を前提に社会で広くデータを共有しながら「公共改革」をしようというところにあります。私たちはデジタル社会に入っているわけですから、上にあげたような公共改革、すなわち、市民参加・協働にしろ、自助・共助・公助にしろ、新しい公共にしろ、自立した市民参加型社会にしろ、デジタル技術の利点をうまく活用して進めるに越したことはありません。私はこれまでの「公共改革」もオープンガバメントも大同団結して「デジタル時代の公共改革」に取り組む全体の司令塔が政府や各自治体に欲しいと思います。

ところでデジタル技術を活用する利点ですが、ここで強調したいことは二つです。ひとつはデータ分析とデータや分析結果をわかりやすく見える化することによって、市民がいろんな課題を深く考える材料が各段に増えることです。これは市民だけでなく、行政職員にとっても同じです。社会の動きを映し出すデータを使って政策を考え行政をよくするというエビデンスベースの政策分析立案能力がいっそう高まりますし、オープンガバメントをきっかけに政策への科学的アプローチをしっかり身につけて欲しいと思っています。見える化されたデータを見て政策を考える道筋をつけていくわかりやすく使いやすい「エビデンスベース政策見える化アプリ」の開発も必要になってくると思います。

もうひとつは、これまでにない幅広い市民の意見の収集と共有です。ソーシャルメディアによってこれができるようになりつつありますが、政策の議論をするのに向いている「政策論議ソーシャルメディア」もいろいろ出てきて欲しいところです。これには先の「エビデンスベース政策見える化アプリ」も上手に組み込んであることが望ましいでしょう。

4.参考になるEC委員会のオープンガバメントの概念

EC委員会の提案するオープンガバメントは、2009年にオバマ政権が打ち出したオープンガバメントの政府の三原則である透明、参加、協働の上に立って、オープンデータ、オープンサービス、オープンデシジョン三つの活動領域を分かりやすく打ち出しています。(図1)

この図から見ると、オープンデータはオープンガバメントの一部で、オープンサービスとオープンデシジョンという残りのオープン活動領域も揃って初めてオープンガバメントの枠組みが出来上がります。さらにこれを社会全体が包む形ですが、そこは市民と行政が一体となり、オープンガバナンスで規律されるというわけです。ガバナンスというのは社会全体をうまく回していく働きと考えて下さい。そして真ん中のオープンガバメントは、これからの行政の姿を現わしていて、三つのオープンを機能させるための推進役でもあり、調整役でもあり、基盤づくり役でもあります。しかも今までのように、行政という閉じた世界で物事を決めて実行すればよいということではなくなってきます。これがオープンという意味で、その対象が、(情報を含む)データ、(政策の)デシジョン、(市民が実際に受け取る)サービスだというわけです。この三つの活動領域にたいして、内容に応じて多少の強弱はありますが、透明、参加、協働という三原則をあてはめていくということになります。

5.オープンガバメントが進める市民参加型公共政策体系モデル

EC委員会の考えやオバマ政権の原則を参考にして、以下ではより実践的なオープンガバメントが進めるオープンガバナンスの市民参加型公共政策体系モデルを提示します。そしてこれには、オープンデータ、オープン意見集約、オープンサービスという三つの活動分野がありますが、それぞれの実行モデルをサブモデルとして提示します。特に重要なことですが、行政は市民とともに市民参加型の社会課題解決体系(公共政策体系)のカナメとしてオープンガバメントに移行し、社会のオープンガバナンスの推進役、調整役と基盤づくりの役を担っていくことになります。こうして、これまでの市民ではなく行政や議会が見つけた課題に特化して取り組みが推進される公共政策体系から大きくパラダイムシフトが起きます。

なお、以下のモデルは理念系です。全体を一気に実行する必要はありません。原理原則を踏まえつつ、行政現場の実情にあわせて、三分野のどこから手がけるか、別の手法を考えるかは自由です。オープン開発の考え方で、皆さんの知恵と経験を元にこのモデルを磨いてバージョンアップできればよいと思っています。

(1)オープンガバナンスの公共政策体系モデル

このモデルの目標は、市民参加による社会課題の解決です。そして、これは三つの活動分野からなります。すなわち、①オープンデータ、②オープン意見集約、③オープン(公共)サービスです。オープンデータは行政の持つデータの積極的な公開とその市民の利用、オープン意見集約は市民による社会課題の発見から始まって政策に対する意見集約までを言います。オープン(公共)サービスは、市民の参加を得た実際の政策形成から政策をサービスとして実施することまでを言います。それぞれに、行政は透明、参加、協働の原則を持って当たり、行政自身はオープンガバメントとなります。一方市民は、学習、参加、協働の原則を持ちます。ここで市民の学習原則は、公共政策実行への市民参加について多くの市民はあまり経験がなく、社会課題の解決に必要な合意とは何かなどの経験をしっかり時間をかけて積む必要があるからです。つまり公共の利益とは何かを実践的に理解していく過程です。地方自治は民主主義の学校といわれますが、オープンガバナンスの公共政策体系の実践が地域コミュニティの再生の契機となりさらにそれによって市民が主役の公共政策体系が改良されていく、という正の循環が生まれれば、より進んだ民主主義の学校になると思います。以下に三つの活動分野をさらに詳しくした実行モデルを示します。

オープンガバナンス公共政策体系モデル

(2)オープンデータ実行モデル

このモデルは、三つの活動分野の最初に来ます。その流れは次の通りです。

まず行政部内のデータの一覧を作成します。これが意外とできていないところが多いと思います。オープンデータの対象は以下を参考にして欲しいと思います。これまでオープンデータの対象としては左欄のファクト系が大部分(それでもまだ不十分)でしたが、市民参加のオープンな政策形成を考えると右欄のポリシー系のオープンデータの充実が必要です。現在、これに近い要素がある自治体広報紙オープンデータ推進協議会といったボランティアの団体もありますが、単に広報の視点だけではなく、政策形成の一環としてとらえなおして、この分野のオープンデータを検討して欲しいと思います。ここまで行けば、政策の実施を受け持つサービス型アプリも市民の力で開発されてくると思います。

オープンデータ実行モデル

なお、情報の流れの側面から行政の機能を見ると、社会の姿を客観的にとらえて政策に反映させようとする情報の収集機能があり、これが政府統計の起源でもありますが、これからは統計類に加えて、社会の中での事象をTwitterなどの文字解析情報分析なども活用されていくと思います。オープンデータ対象分類ではファクト系になります。

さて、ここで作成するデータ一覧ですが、全て網羅的に整理しておくことが肝心です。そのデータの管理責任者もはっきりと決めたほうがよいでしょう。そして、行政部内全体の現在のデータカタログを作っておくといいと思います。これは次の三つに分類されます。

(表)オープンデータ対象分類
自然・社会事象データ(ファクト系) 行政活動データ(ポリシー系)
自然現象 政策の内容、理由、手続
地理情報 法律、規則、通達、文書
社会事象 予算・決算
経済事象 予算支出状況と政策評価
健康医療 選挙結果、議会活動、審議状況
(統計類、空間・時系列データ) (エビデンスベース政策の習慣づけ)

まず、①ファクト系データカタログ、②政策・サービスカタログ、それに③社会課題カタログです。②の政策・サービスカタログは、上の表のポリシー系を念頭に作成してください。通常は行政と議会を分けて作ります。行政では一つの政策について、上の表の「政策の内容、理由、手続」、「法律、規則、通達、文書」、「予算・決算」、「予算支出状況と政策評価」が体系的につながっていることがわかるようなカタログを作ると良いでしょう。③は社会課題の解決がオープンガバナンスの公共政策体系の目的という点から重要な整理で、アンケートなどからデータとして整理すべきでしょう。モデルには描いていませんが、この三つのカタログを有機的に組み合わせることができるウェブサイトがあると良いと思います。

次に、公表不公表の分類と重複データ・不足データの整理です。データは原則公開ですが、一部は個人情報保護や治安の観点で公表不公表の整理をしていきます。できるだけ早く多くのデータをオープンデータ形式で公表したほうがいいので公表計画を作ったうえで、予算制約などもありますから、公表の順序は地域で優先順位の高い分野からの公表手順を決めていくのも一案です。

こうして決められた公表データ対象について、データ形式を決めていきます。ここで、「ガイドライン」と違って、人向けデータ形式も検討するようにしてあります。これは機械読み取り可能なデータ形式だけでは人はわからず不親切だからです。米国でも機械読み取りだけでは困るという議論が市民からあります。特に政策の良し悪しを市民が考えていく際には、人にわかりやすくデータを公開することも重要です。見える化構造化と書いてあるのはその趣旨です。構造化というのは、例えば政策について、その政策内容だけでなく、その政策の根拠としたデータ、データの判断、政策の実際の手続などをわかりやすく体系化してウェブ上に示すことを意味しています。機械判読データ形式は「ガイドライン」を参照してください。

そしていよいよ、オープンデータを使ったアプリの作成奨励です。アプリを作成する場合にぜひ地域の課題は何かそれにどう役立つかをいろんな関係者から意見を聞きながら作ってください。最近あちこちで行われるようになったアイデアソン、ハッカソンは公開原則で進めるという素晴らしい進め方をしています。ただ、お祭り的にこれらを開催して終わりということにならない工夫も必要です。このためにも、モデルで書いたその次のステップの振り返りとしてのアプリ利用度チェックとアプリ改善奨励をぜひ進めてください。

新しい試みとして、GLOCOMの庄司昌彦氏が提唱したマーケソンというのがありますが、これは開発したアプリの実用可能性を探るイベントです。このマーケソンで勝ち残れるかどうかは、アプリが単にデータの加工段階に留まるのではなく、データ分析の結果を利用して市民が求めているサービスを提供することができるかどうかにかかっています。これなども今後あちこちで取り上げられて、オープンデータからより実益性の高いアプリ、さらに進んで政策の実施を受け持つサービス(公共政策体系モデルの右上のほうのアプリ開発から下に矢印が出ている部分に相当)ができてくることを期待します。もちろん、後者のような政策実行サービス型アプリが開発されるには、ポリシー系のオープンデータの充実が不可欠です。

(3)オープン意見集約実行モデル

次の段階は政策についての市民の意見集約です。私は独立してこの段階を行うより、次のオープンサービスとつなげて、いいかえれば具体的な政策対象を念頭において、オープン意見集約を進めたほうがよいと考えています。詳細な流れは図を見て頂くとして、この意見集約段階で大変重要なことは三つあります。一つは市民の学習環境を整えることとそのプロセスを設けることです。ある特定の分野の意見を市民から聞くわけですから、市民が考えるにあたって必要なデータを体系的にわかりやすく提示する必要があります。これがオープンデータモデルのところで書いた人向けのデータ公開形式やポリシー系のオープンデータの充実に通じる点です。また既存の政策について、政策実行主体を念頭にして、官民協働型・行政中心型・市民中心型の分類を知ることも必要です。さらに複数の専門家の意見を市民に聞いてもらうことも必要です。サイトで意見を知る市民向けには、これまでのようにある課題の検討会などの議事録を公開するだけでは十分ではありません。議事内容の構造化、つまり分かりやすい整理と見える化による提示が必要です(ここは厳密にはオープンデータの活動分野です)。そして市民からの意見の出しあいは一回にとどめず、専門家の意見を聞いた後でもう一度行うなどの工夫が必要です。

オープン意見集約実行モデル

二つ目は、現行SNS技術の限界と意見の社会的公平性の問題への対処です。具体的には、集会形式の実の会議での意見交換SNSによる意見交換のハイブリッドを考えて欲しいということと、意見を述べる市民の選択の問題です。外国でよく議論される形式では、集会は(階層別などもありうる)無作為抽出による選択とネットの場合は自由参加の組み合わせなどです。

三つ目は全体の進行の存在で、公平中立な立場でかつ意見を出しやすい雰囲気を作れるファシリテータが必要なことです。今後、オープンガバメントの舞台回し役になる行政ですから、理想は行政職員にこういう経験を積んで欲しいと思っていますが、政策遂行にかかわっている立場を離れてどこまで公平中立な立場を貫けるかですが、市民からの信頼を得るためにそれなりの制度的な工夫も必要でしょう。

(4)オープンサービス実行モデル

いよいよ政策の中身を決めそして実施するサービス実行段階のモデルです。このサービスは単にウェブ上での情報のやり取りで済むようなサービスに限りません。労働の提供によるもの、金銭の提供によるもの、施設の貸与などすべての行政サービスが対象です。この段階で重要なことは、①政策形成過程をオープンにすること、②政策実行主体を念頭にして、官民協働型・行政中心型・市民中心型の分類を確認することです。なお、官民協働型にはデジタル時代で可能となるマイナンバーを利用した個々の市民との共同作業によるきめ細かいサービスも入ってきます。そして③政策案を複数考え、それぞれに費用対効果を出して、市民にも納得できるかたちで絞込みの理由をわかりやすくすることでしょう。この絞込みにもオープン意見集約型で市民の参加を求めていきます。そして、議会の手続きが必要な政策はその審議承認を求めます。以上を経て、具体的なサービスの開発に入りますが、この段階では、官民協働型、行政中心型、市民中心型の分類に適したサービス開発を行います。オープンデータで市民によるサービス開発を期待することもあると思います。

オープンサービス実行モデル

6.行政の新しい役割とオープンガバメントの担当部局

行政はこれから「オープンガバメント」を円滑に進めるという新しい機能を担う舞台回し役になりますが、この担当をどうすればよいでしょうか。

「ガイドライン」では、最初にオープンデータの担当チームを決めるように促しています。オープンデータ(だけ)を考えている「ガイドライン」には、自治体の現状に照らしてその際の考え方と三つのパターンが挙げられていますが、これを導入する自治体では、オープンデータに加えて、さらに追加していくオープン意見集約、オープンサービスも同じ担当が担うことになることを視野に入れて担当を決めていくことが賢明だと思います。その際のポイントは(表2)のとおりですが、地域住民と一緒に進める公共サービスの改革であり、これに沿った職員の意識改革も必要なことですので、行政全般の改革を進める部局が、情報担当課の全面支援を得ながら一体となって進める体制(まさに行政部内の協働作業)が望ましいと思います。政府が行ったアンケート調査によると、現在は、情報システム担当部門やIT政策担当部門など、IT系の部署の割合が約半数(両者を合わせて123団体、全体の46.9%)。次いで、企画政策系(86団体、32.8%)、総務系(35団体、13.4%)、広報系(18団体、6.9%)となっていて、行政全般の改革を視野に入れた部局がリードする形になっている自治体は多くないのが気になります。

(表2)担当チームの作り方
担当チームの作り方
オープンデータのみ(「ガイドライン」提示のもの) オープンガバメントを視野(提案)
  • 情報通信技術(IT)に知見のある情報担当課がオープンデータを担当し、Webサイトのコンテンツ管理を担当する広報課や、現場を持つ業務を担当する各課等と連携
  • 業務担当課は、まず予算・決算、統計情報等、既にWebで公開している情報を担当する部署が候補
  • 自治体内で、オープンデータに関する勉強会等を行い、関係部署の理解を高めておくと、後の連携がスムーズ
  • 地元の企業、民間団体やNPOなどと連携することも検討

    (三つのパターン)

    1. 企画政策担当課が情報担当課等と連携
    2. CIOの担当部署が担当
    3. 情報担当課が担当
  • 地域住民と進める公共サービスのパラダイムシフト、職員全員の意識改革であることを念頭

    (オープンガバメントの推進、調整、基盤づくりのまとめ役)

  • 市民参画、市民協働、部局間連携を視野に入れた企画、業務・行政改革、総務が主導
  • デジタル技術の活用を前提にした情報担当課と広報担当課による全面協働(いずれも必要に応じて能力開発)
  • 首長、議会との連携を視野

7.さいごに

「オープンガバメントが進める公共改革」は、市民参加型の社会課題の新しい解決手法に踏み出すもので、行政にとっても市民にとっても新しい経験です。世界中のどの国もまだこれという抜きんでた成功モデルを提示できているところはありません。ということは日本もこの新しい競争に十分モデルを提示できる段階にあります。明治維新は当時の欧州に官民一体で必死になって追いつこうと西洋の諸制度を吸収しましたが、それに比べると現在は日本も欧米とほぼ同列にいます。ぜひ皆さんの柔らかい発想、時には大胆な発想で世界に誇れるデジタル時代の公共改革を着実に進め、市民が主役で行政はプラットフォームになるという市民参加型社会の新しいグランドデザインを描いて欲しいと望んでいます。

奥村 裕一(おくむら ひろかず) 東京大学公共政策大学院客員教授

通産省時代に現場の電子申請手続きに関心を持ち、貿易経済協力局長退官後電子政府の研究に入る。2005年東京大学大学院法学政治学研究科特任教授。同年ハーバードケネディスクール客員研究員。研究関心はデジタル時代の行政近代化、オープンガバメント、ソーシャルアーキテクチャ。1948年生まれ。