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オープンガバメント実践紹介

草の根の「市民自治」を引き出す情報基盤「ちばレポ」 〜手のひらから目指すローカルガバメント2.0〜

手のひらの中にある1台のスマートフォン(スマホ)。政令指定都市・千葉市で、このスマホを活用したまちづくりの情報基盤「ちば市民協働レポート事業」(通称・ちばレポ)の活用が進んでいる。情報コミュニケーション技術(ICT)を生かし、これまで地域に関心が薄い層にも気軽に市政への参加を促し、協働を創発するコミュニケーションツールの開発・運用を統括する同市・市民局局長の金親芳彦さんに、「ガバメント2.0」を掲げる同市における「ちばレポ」の位置付け、ビジョンなどを聞いた。

ちばレポのしくみ① ちばレポは「市民と行政が協働する基盤」

台風の後の倒木が気になるー。
子どもを遊ばせている公園の遊具が壊れそうー。
道路の側溝にごみが不法投棄されているー。

暮らしの中で、私たちが見かけるさまざまなまちの「困ったこと」。気づいても、その不具合をどのように、だれに伝えたら解決するのかを調べ、伝える時間と手間をかけられる市民は多くない。そしてそのまま危険は放置。役所の職員が気づくまで、危ない状態が続くこともしばしばだ。

千葉市が2014年9月から始めた「ちばレポ」では、こうした街中で見かけた危険や不具合を簡単に市民が市役所の担当課に送り、ウェブサイトで情報共有することができる。

このしくみは、スマートフォンの写真撮影・送信機能+GPS(全地球測位システム)+顧客管理システム(CRM)+ウェブサイトの合わせ技で構築されている。

ちばレポ地図画面

市民から送られた「こまったレポート」は、自動的にデータベースに登録され、千葉市は公共施設・道路などの不具合情報を把握・可視化。情報をもとに、担当課が対応するフローになっており、市民と行政が協働して「まちの不具合」をオープンにし、解決する情報基盤となっている。

ちばレポのしくみ② 「スマホで写真を送るだけ」の簡単参加

市民は、まず「ちばレポアプリ」 (Android/iOS)で、レポーター登録する。その後、道路や公園の不具合、放棄されたゴミなど「こまった」を発見したら、自分のスマホでアプリを起動し、写真(動画も可)を撮影・送信する。
GPSが位置情報を自動で画像に付加するため、レポーターが改めて発生現場の住所を入力する必要がない。また、画像情報があるので、詳しい説明コメントは不要で、簡単に千葉市に情報を送ることができる。

ちばレポのサービス

CRMを活用し役所の業務効率化も

これまでの市民情報投稿サイトと異なってユニークなのは、市民の登録した情報を市役所内の業務改善・効率化に生かしている点だ。

「こまったレポート」は、クラウドのCRM「Salesforce1」をカスタマイズして作ったデータベースに登録され、担当部署に振り分けられる。
投稿は、市民局で投稿ガイドラインによる確認後にウェブに反映される。合わせて、担当課は、ウェブに掲載された市民の情報に対し、対応方針についてのコメントを投稿することになっている。
「自治体の業務フロー改善までやらなければ、ちばレポをやる意味がない」と金親さんは話す。

対応完了はもちろん、対応できないなら、はっきりとその旨を知らせる。単なるまちの情報投稿サイトに終わるのではなく、市民の情報を行政が受け取り、レスポンスを返す点が、協働の前提となる「市民と役所の信頼感の醸成に欠かせない」(金親さん)という。

新たな業務に担当課は…

「こまったレポート」は、現在、公共施設・公共空間の不具合などに限られ、対応もその範囲に限定している。

別部局である市民局主管事業の「ちばレポ」活用と「市民の情報に直接返信する」という新たな業務の負担に、現場から抵抗はなかったのだろうか。

金親さんによると「戸惑いはあったと思いますが『道路などの修繕は本来の仕事だから』ということで、正面から向き合ってくれました」と、思ったよりも円滑にシステムが運用されているという。

建設局がこれまで使っていた「道路等維持管理システム」もこのCRMに統合された。これまでファクシミリや電話で受け、Excelで管理していた年間約13000件にのぼる情報も、ちばレポ情報とともに分類・状況把握ができるデータベースに登録され、以前より使いやすくなったことも、現場が使うインセンティブになっている。

これまで市民と対話する機会が少なかった建設部門も、ICTによってダイレクトにつながり、アクションを起こし、返信する時代が来た。

市民とのコミュニケーションを「避ける」のではなく、活用する。ちばレポは、市民と行政が「チーム」のように、ともに地域を作っていくための情報をやりとりするツールといえそうだ。

ガバメント2.0掲げ、市長が強力に推進

「ちばレポ」は、情報通信業界出身の熊谷俊人市長が2013年5月の選挙の際、マニフェスト冒頭に掲げたビジョン「96万人みんなが主役の千葉市づくり」の1項目「96万人総出の街づくり作戦!『住む街を良くしたい』が行動につながる街へ」に基づいていており、市長の強いリーダシップの下で実施している事業といえる。

熊谷市長は、ちばレポが本格稼働する際の市長会見で「ICTを活用して市民が市政に参加し、地域課題を解決する日本で初めてのしくみ」と紹介し「行政と市民の関係を抜本的に変えるツール」だと自信をのぞかせている。

政令指定都市の首長として最年少で、SNSを日々使いこなして直接市民とやりとりをする熊谷市長は、マニフェストのビジョンの1つに「ガバメント2.0」を掲げ、現在様々な「ビッグデータ・オープンデータ施策群」を仕掛けている。ちばレポはそのうちの「市民協働型事業」1つだ。

「ガバメント2.0」には、さまざまな定義があるが、この概念を最初に提唱したアメリカのティム・オライリーによると、政府を(税金を入れればサービスが出てくる)自動販売機ではなく「市民による公共事業=Do it Ourselves=の組織者、プラットホーム」としてとらえること。(※1)

千葉市では「最新のテクノロジーを使い、市民が公共サービスや政策決定に参加する試み」(※2)「市民と地方自治体が相互に、能動的に係わっていく社会」(※3)としてとらえている。

ちばレポは、オープンガバメントの「透明性・参加・協働」原則の中で、「参加・協働」を担保する。
金親さんは「千葉市の現状把握に欠かせない情報や課題を市民と共有するためのオープンデータと、課題解決に市民と市役所が協働でアクションを生み出す『ちばレポ』があって、オープンガバメントが成り立つ」と、自由な行政データ活用と課題の可視化・共有、その上での協働アクションが、「車の両輪」であることを強調した。

ちばレポのこれから

千葉市の課題は他都市と同様、人口減と少子高齢化。今後、税収減少による財政難に伴い、公共サービスの再構築も考えなければならない。

さらに、コミュニティにおいては自治会・町内会の担い手も減る。自治会の世帯加入率は80%(平成11年)から71%(平成24年)に減り、まちの安心や快適さを守ってきた既存の市民のつながりが弱くなりつつある。

そうした状況でちばレポを活用し、千葉市はどのようなまちづくりをしていくのか?
金親さんは「課題をインターネット上で共有し、市役所だけが解決を担うのではなく、できるところは市民の力で街を良くする。そこで浮いたコストはもっと大変な他のところに回す。そんなまちにできたらいい」と話す。

こうしたまちづくりに向け、2014年度末に、ちばレポは新たな参加のしくみを2つスタートさせた。
1つは、2015年1月から始まった「連携協力企業及び団体」制度、もう1つは3月12日に開始した「ちばレポサポーター制度」だ。

金親さん

千葉市市民局局長 金親芳彦さん

「連携協力企業及び団体」制度は、CSR(企業の社会的責任)に関心を持ち、地域貢献を志す企業とちばレポをつなぐ。連携団体になった企業は、従業員にレポーター・サポーター登録を促したり、事業所や店舗周辺の課題発見・解決に努めることになる。

「サポーター制度」は、「協働」の1つの形。行政でなければできない課題と、市民が担える課題を切り分けたうえで、「サポーター」は解決に協力する。
例えば、草刈りやペンキ塗り、ごみ拾い、草花の植栽・管理など、市民ができることは「自分たちで」(Do it Ourselves)対処するのが「サポーター」だ。「今後は、こうしたサポーターが実施する解決イベントも地図上にマッピングしていくことも予定しています」と、金親さんは「市民のイベントプラットホーム」としての活用も描いている。

2015年3月12日にレポーター登録者数が2000人超えたちばレポ。開始から半年余りで「こまったレポート」は835件、解決数は746件(2015年3月6日現在)と、順調にしくみは動いている。

同市はさらに、このシステム自体の利用自治体を広げるとで、運用経費の負担を下げる方向性を打ち出している。また、市民が登録していたデータのオープン化も視野に入れている。

「96万人すべての市民の英知をまちづくりに生かしたい」というビジョンを実現するための「ちばレポ」は2015年1月、総務省の「地方創生に資する『地域情報化大賞』表彰」で、奨励賞を受賞した。「手のひらの端末」から始まるこのシステムは、地方からのオープンガバメントを深め、広げていく大きな可能性を秘めている。

※1 ティム・オライリー特別寄稿:「ガバメント2.0―政府はプラットフォームになるべきだ」
http://jp.techcrunch.com/2009/09/05/20090904gov-20-its-all-about-the-platform/

※2 「ちばレポ~市民と行政をつなぐ新たなコミュニケーションツール~」(千葉市市民局 金親芳彦)
http://successjp.salesforce.com/20141204-SWTT/9-3_ChibaCity.pdf

※3 「千葉市が取り組むビッグデータ/オープンデータ施策群 」(千葉市総務局情報経営部)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000326602.pdf

(文:宮島真希子)