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オープンガバメント実践紹介

各地にオープンソースマインドで 透明化と協働を支える「シビックッテックコミュニティ」をつくる
一般社団法人「コード・フォー・ジャパン」関治之さん

オープンガバメントの要諦は「透明性」「参加」「協働」といわれている。基礎の基礎となる「透明性」を担保するのが、行政が調査・蓄積している膨大なデータの所在の可視化とその活用だ。オープンデータを使って社会課題を解決したい技術者らがみずから「参加」の基盤をつくり、IT人材の不足に悩む自治体とつながって地域に「協働」の連鎖を生みだしつつある。一連の動きを推進する一般社団法人「コード・フォー・ジャパン」(CFJ)代表の関治之さんに、「シビック・テック」とオープンガバメントの関係と実践例、今後の展望について聞いた。

原点は震災、そしてオープンソース

CFJ代表を務める関さんは、位置情報を生かしたシステム構築を本業としている。「エンジニアなら誰でもそうですが『技術で世の中をよくしたい』と思っていました」という関さんを、本格的に公益的な活動に引き寄せたのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災だった。

東北の被害を知り、首都圏も混乱する状況下で、関さんはOpenStreetMap Japanなど、「位置情報コミュニティ」の仲間とともに被災地支援と道路状況の案内、安否確認ができるマッピングサイト「sinsai.info」を発生後わずか2時間で立ち上げた。

津波や原発事故の衝撃、余震の不安の中で「今できること」を模索し、手を動かし続けた関さんがエンジニアの協働作業基盤として活用したのが、オープンソースソフトウエア(OSS)の「ウシャヒディ(Ushahidi=目撃者・証言の意)」だった。100人以上のエンジニアが、「被災地の不安や不便を軽減したい」と、自発的に情報を集め、コードを書き、必死にウェブを更新し続ける。

情報がみるみると蓄積されていく様子を見ながら関さんは「世界中のコミュニティからアイデアや情報が集まり、オンライン上でのコラボレーションで課題が次々と修正され、それがみんなのためのソフトウエアになっていく。OSSの可能性を強く感じた」。この震災時に体感したオープンソースという基盤上でのコラボレーションの可能性、そこから生まれた「新しい公共的な価値」が、CFJの原点になっている。

Code for Japanの立ち上げとシビックテック

関さんはマッピングサイトsinsai.infoを運営しつつ、災復興支援アプリ開発コミュニティ「Hack For Japan」の中心メンバーとして活動を重ねた。福島・岩手をはじめ、全国各地でアイデアソン・ハッカソンを開催していった。

2年ほど続けた段階で、関さんは壁に突き当たったという。行政データがオープンでなく、被災地で必要なアプリがつくれない、短期的に被災地に滞在してサービスをつくっても、市民が使うまでのフォローができない−。その地域に住むエンジニアたちが、自分の暮らしをよくするためのアイデアをつくり、継続的に対話をするしくみが必要であるなどの課題が見えてきた。「震災でいえば、社会福祉協議会や自治体にIT技術者が入り、継続的に活動しないとせっかくのサービスが生かせないし、改善ができない。身体を使った被災地ボランティアであれば、瓦礫片付けを1日、という関わり方もできるが、ITはそういうわけにいかない。何か創っただけではだめで、運用が大切」と、行政セクター・市民セクターと密に関わりながら継続的に関わる仕組みの必要性を痛感したという。

そんな時、関さんは偶然テレビで「Code for america 」を主宰するジェニファー・パルカさんのプレゼンテーションを見た。ITエンジニアが中心になってコミュニティをつくり、市民と対話を重ね課題を共有し、自治体には技術者を派遣してデータ整備を助言し、市民の暮らしに役立つアプリ作りに携わるー。そんな仕組みがすでにアメリカでは動いていた。テクノロジーの力を課題解決につなげるための「ハブ」を自分たちでつくり、つながりを築くコミュニティを「日本にもつくりたい」と、関さんはすぐにアメリカに発ち、パルカさんに会いに行き「コード・フォー・ジャパン」構想について話をし、設立の決意を固めた。

そして、2013年10月に一般社団法人としてスタートした「コード・フォー・ジャパン」。「地域の課題を住民参画とテクノロジー活用によって解決する」という「シビックテック」のコンセプトを「ともに考え、ともに創る」という理念に込めている。

全町避難の町をつなぐ770アイデアを生み出す〜浪江町・フェローシッププログラムにみる透明性・参加・協働①

CFJのような技術者コミュニティは、情報技術の活用なしには成り立たない「オープンガバメント」の中でとても重要だ。オープンデータの形式や語彙策定への提案に始まり、アイデアソン・ハッカソンの実施、プロトタイプの制作など、透明性を高め、参加を促し、コラボレーションを活性化するために、多様な貢献ができる。

特に行政セクターに対して、シビックテックは「オープン」「参加」「協働」を迫る「黒船」の役割をはからずも果たしている。CFJが主催・連携するアイデアソンやハッカソンなどのイベントにあわせて、行政セクター内部に蓄積されたままになっていたデータがオープンになるケースは少なくない。知らず知らずの内に、シビックテックコミュニティとの対話を通じて行政の「透明度」が高まっている。

その一つの象徴がCFJが福島県浪江町で展開している「フェローシッププログラム」だ。これは一定期間、自治体にデザイナーやプログラマーなど、高度な情報技術を持つ人材を派遣する企画で、世の中の役に立ちたい情報技術者と複雑化するITに対応し切れない自治体をCFJがマッチングし、サポートする。

浪江町は、東京電力福島第1原子力発電所の事故の影響を受け、2011年3月14日以降、全町避難が続いている。避難中の町民約2万人は全国に散らばり、高齢の町民の連絡手段は限られ、かつての共助はなくなり、つながりは急速に弱まっている。

長期化する避難生活のなかで不安や不調を抱える町民の絆の維持・再生を目指す「浪江町タブレット端末配布事業」にCFJは参画し、住民のニーズ調査やアイデアソン、ハッカソンから要件定義書策定業務などを担った。

同町が、フェローシッププログラムと連携した背景には、先行する町村のタブレット事業で利用率が伸び悩んでいたという事情があった。高齢者が多く「1カ月に1度触った人は40−60%」で、中には「箱から出していない」という人もいた。そうした先行課題を踏まえ、同町は「住民の声を聞き、本当に必要とされ、役立つアプリをつくり、つながりを維持していきたい」と、コミュニティに分け入り、育てながら開発を進めるCFJをパートナーとして事業を進めてきた。

エンジニア・町職員らでつくるコミュニティ「Code for Namie」によると、2014年4月〜6月にかけて、役場職員対象のアイデアソンや復興支援員対象のミニワークショップも含めてアイデアソン8回・ハッカソン2回と通算10イベントを開催し「一般参加者314名、浪江町民115名、総勢453名が参加、770アイデアと12個のアプリが完成」という濃密な内容を残している。エンジニアだけでなく、ふだんはITとはまったく無縁な町民を巻き込む「住民中心設計」をコンセプトにすえた成果だ。

異例のオープンプロセスで1億円を削減〜浪江町・フェローシッププログラムにみる透明性・参加・協働②

さらにCFJは「調達の透明化」にチャレンジした。住民が必要とする「しくみ」を技術者に伝える「調達仕様書」「要件定義書」の策定をフェロー、CFJメンバー、役場職員などが同じテーブルで議論した。協働の成果として、「調達したシステムをオープンソースで公開することを明示」など、運用後もシビックテックの関与によって仕組みをよりよく育てていく道筋をあらかじめ埋め込むことができた。こうすることで、不具合がOSSコミュニティによって改善されることが期待でき、運用コスト削減にも寄与する。

異例な手法はまだある。アプリ開発業者の入札プロセスも、すべてガラス張り。浪江町のホームページには「浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業調達書」のほか、入札企業の提案資料や選考にあたっての評価書なども公開されている。評価は、住民も参加するなど、時間をかけて選択を行った。住民の視線も生かす参加型・全公開のプロセスデザインが奏功したのか、当初予定していた調達価格を1億円以上も下回った。

地域に対してシビックテックができることとは、これまで「地域ごと」に参加したことのなかった無関心な市民たちに対して、使いやすいアプリなど、テクノロジーで参加する基盤を創ること。

さらに、オープンデータを使ったアプリが暮らしに役立てば、データを公開した意義もわかりやすい。シビックテックは「オープンデータって必要なの?」と問う行政の現場に対し「透明化」へのインセンティブを高める役割を果たしている。

CFJでは、この浪江町のプロジェクト経験を生かし、「コーポレートフェローシップ」という、企業連携のIT人材マッチングコーディネートをすでに試験的に導入、2015年4月から本格稼働する予定だ。

草の根ハッカーをつなげて住む町をハッピーに〜地域課題にフォーカスするブリゲード

関さんは2015年度、力を入れたい事業として「ブリゲード」を挙げた。これは、地域のIT技術者をつなげ、各地に「Code for ○○」コミュニティをつくる動きだ。現在、全国に28あり、今後も続々と設立が予定されている。

地域のオープンデータを活用し、身近なまちの不便や不具合、課題に役立つサービスをつくるために、アイデアソンやハッカソンをみずから企画するなど地道な活動だが、これまでにごみ分別と収集曜日などが直感的にわかる「5374.jp」(ゴミナシ)(Code for Kanazawa)など暮らしに密着したオープンソースアプリなどがつくられている。

関さんは「これまでに各地のハッカソンで数多くのアプリが作られてきたが、お蔵入りさせておくのはもったいない。新しい1年では、こうしたアプリをデータベース化し、各地で共有発展させていくような仕掛けができたら」と、展望を語る。さらに「ブリゲードでつくられたソフトウエアのビジネス化支援や、すでにあるOSSを改善などにも挑戦したい」と、「広がり」を意識した事業をイメージしているという。

(文:宮島真希子)