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オープンガバメント実践紹介

マルチセクターの協働でつくる
シビック・クラウドファンディング
〜Do it Ourselevesで大都市の課題解決を志向するLOCAL GOOD YOKOHAMA〜

日本で最大の人口・371万人を抱える基礎自治体である横浜市。2020年のピークを境に人口減少が予想され、すでに2013年度には高齢化率が21%を越えた「超高齢化社会」となっている。その横浜で2014年10月、マルチセクターの協働で実現したシビック・クラウドファンディングとローカルメディアの複合基盤「LOCAL GOOD YOKOHAMA」(以下ローカルグッド)。地域課題解決プロジェクトの資金調達を、市民が直接支援するアクションを通じて、市民の地域参加と課題に対する意見の集約、政策の創造を志向するチャレンジが始まっている。

ウェブ+イベントで地域への関心喚起

ローカルグッドは、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ(以下「ラボ」、横浜市中区)が運営するウェブサイトとリアルなイベントを組み合わせた、市民参加のしくみだ。地域に暮らす市民や企業、団体が自分の住み・働くまちに関心を持ち、それぞれができる範囲で”モノ・カネ・ヒト・情報・サービス”の循環をつくっていくための基盤を目指している。

2014年6月にローカルメディア部分が、続く10月にクラウドファンディング+市民のスキル登録の基盤がスタートした。

記事コンテンツとしては、「ローカルグッドニュース」を中心に横浜市のオープンデータを活用した「課題を知る」や「データを見る」、GoogleEarthをカスタマイズして作成した「横浜市立体マップ」(首都大学東京・渡邊英徳准教授監修)などのコーナーがある。いずれも地域の「今」を具体的に理解してもらい、アクションを起こすきっかけを提供する試みだ。

さらに、この情報基盤を軸にしたアウトリーチとして、各区のコミュニティカフェなどで行う「ローカルグッドカフェ」、特定のテーマについて未来の「ありたい姿」を議論する「フューチャーセッション」などのイベントがある。

ソーシャルビジネスにせよ地域活動にせよ「横浜のために何かをしたい」という人に対し、横浜の情報やデータを提供することで「何が課題なのかを、”自分たちごと”として理解し、ほんの少しでも動いてもらえたら」と、ラボ代表理事の杉浦裕樹さんは語る。


温かいお金の循環〜シビッククラウドファンディングの可能性

ローカルグッドのクラウドファンディングが、他のそれと異なるのは「地域の課題」、とりわけ「コミュニティ経済の創造」に特化した編集をしていること。

さらに、横浜市と連携し、できるだけその裏付けとなる「データ」を紹介し課題に裏付けを求めている点や、資金調達後もプロジェクトの実現プロセスをニュースとして継続的に伝えていく点が特徴となっている。

欧米では、「公園の緑を守る」「学校に自転車駐輪場をつくる」「アートプロジェクトをつくりたい」など、地域で困っていること・やりたいことを解決するプロジェクトについて、住民みずからがインターネットを介した資金を提供することを「シビック・クラウドファンディング」と呼んでいる。※1

また、米国でオープンガバメント活動を支援する「ナイト財団」のレポートによれば、シビック・クラウドファンディングは、「市民のための市民による情報技術活動」である「Civec Tech」の一環として位置づけられている。※2

杉浦さんは「LOCAL GOOD YOKOHAMAも、日本におけるシビッククラウドファンディング」ととらえる。「単にお金を出すにとどまらない、市民と市民のつながり、課題が共有され、ともに1つの地域をつくる仲間を見つけ出す。温かいお金の循環とともに、そんな参加と協働、新しい化学反応が生まれています」と、これまでの4つのプロジェクト(すべて目標額達成)を振り返る。

地域情報化からオープンイノベーションへ

この、LOCAL GOOD YOKOHAMAを運営している横浜コミュニティデザイン・ラボは、「地域情報化」を関心分野として2003年にNPO法人となり、2004年からその活動の主軸となる「ヨコハマ経済新聞」(ハマ経)の運営を開始した。

ハマ経は「まちの記録係」というコンセプトで運営されている「みんなの経済新聞ネットワーク」(本部・東京都渋谷区)の1つ。横浜の都心臨海部である「中区・西区」を舞台に、食・アート・イベントなど「ハッピーニュース」を新聞ニューススタイルで掲載し続けている。

杉浦さんがたった1人の編集部から始めたハマ経は、2015年3月で創刊12年目に入り、掲載記事の累計は9300本を超えた。横浜が好きな市民がさまざまな立場で参加し、取材した記事を掲載している。
 「取材は、さまざまなジャンル・年代の人達に出会いながら、まちをリサーチすることができる行為。書ける人にはどんどん参加してもらい、その人なりの関心で横浜という町に参加してほしい」(杉浦さん)という視点で続けてきた。

人と人が出会い、言葉をかわし、情報を発信していくと、新たなつながりが生まれ、まちが少しずつ変化していく。こうした活動を蓄積してきたラボが、横浜の18区をカバーするローカルグッドを始めたきっかけの1つは、東日本大震災にある。

震災発生後に、神奈川県内の情報ボランティア立ち上げに関わったラボは、東北の現場で災害ボランティア、復興支援の活動に携わる様々なプロジェクトに接した。

その経験を経て、横浜でもより一段、深く地域を知り、関わっていく必要性を感じたという。「取材などで築いてきた横浜コミュニティデザイン・ラボのネットワークやメディアの機能を、社会の課題解決のために使えないかと思った」と、杉浦さんは振り返る。

必ずしも「ハッピーニュース」というアングルではすくいとれない地域の課題に挑んでいる人達を「どのように自分たちの活動のなかで支援していくのか?」。こうした問いを携えながら横浜で始めた小さなイベントが「政策デザイン勉強会」だった。

マルチステークホルダーで実現した課題解決の仕組み

ラボが2012年5月から始めた政策デザイン勉強会は、現在までに25回開催されている。「様々な主体が、地域の具体的な課題や国内外の情勢を知り、未来の街の姿を広い視野でとらえ、政策決定のプロセスに市民が参加していくための仕組みや仕掛けを考える」ということを目的としており、学生、研究者、企業関係者、公務員など多様なセクターの人達が集っている。

この政策デザイン勉強会に、ゲストとして招かれたアクセンチュア株式会社(東京都港区)のコーポレートシチズンシップ推進室 マネージング・ディレクター・市川博久さんが、東北地方に特化したクラウドファンディングについて講演したことが、横浜発のクラウドファンディング実現の一歩だった。

「市民から資金を募り、ソーシャルビジネスを興すコミュニティ経済の金融インフラとしてのクラウドファンディング」について話した市川さんの講演から約1年3カ月後。マルチステークホルダーであるラボ、アクセンチュア、そして横浜市が議論を交わし、手を動かした時間を重ね、2014年6月に、LOCAL GOOD YOKOHAMAを立ち上げた。

ラボは地域とのネットワークと具体的なプロジェクト実行部隊として、アクセンチュアはプラットホーム構築面についての人材・資金両面からの支援を、横浜市は政策課題の共有とデータのオープン化を実践し「それぞれができること」を持ち寄り、1つの基盤を完成させた。

シビック・クラウドファンディングとオープンガバメント

企業と行政、そしてNPO法人が1つのチームとなり、持続可能な地域にしていくためのシビック・クラウドファンディングの仕組みを立ち上げ、政策の芽を抱くチャレンジャーをオンラインニュースで紹介し、リアルなカフェ・イベントでまちを語り合う−。こうして情報が動いていくと、あちこちから「まちにこんなサービスがあったら」「こんなイベントができないか」という変化が生まれている。

実際にクラウドファンディングのプロジェクトマネジメントを担うスタッフのところには「まちをハッピーにしたい」というアクションの種を持った人達が集まってくる。

ソーシャルネットワークが発達し、オンラインでの情報交換はもちろんだが、地域で行う良さは、調整ややりとりを顔をあわせて行える点。チャレンジャーたちの「地域がこうなったら」という声が、次の横浜を創る。批判でなく「提案や創造で主体的に地域を動かそうとする人達が可視化され、ネットワークでつながる仕組みがクラウドファンディング」(杉浦さん)という手応えを感じている。

地域への参加・異なるセクターとの協働を促す民間のプラットホームであるLOCAL GOOD YOKOHAMA。今後は顧客情報システムとのつなぎこみといったシステム面の改善、他都市展開とともに、このプロジェクト自体を持続可能にするための事業開発、企業セクターとのコミュニケーション強化にも着手する。

少子高齢化が進行し、社会保障費が増大する一方、税収は右肩下がり。大都市横浜でも例外ではない。むしろ人口減少が始まった場合には、ボリュームが多いだけにそのインパクトの大きさは予想できず、過疎地とは異なる課題が噴出する可能性もある。

杉浦さんは「税金を原資とする制度的支援、行政の委託に頼らないお金をつくり、民による公益的な活動を担保して、そのアクションを担う人を相互に応援しあう基盤がローカルグッド。価値観の異なるセクターと対話をしながら今後も必要とされるしかけや仕組みを取り入れ、バージョンアップしていきたい」と話している。

▽P2P foundation.net
http://p2pfoundation.net/Civic_Crowdfunding
(※1)
“Civic crowdfunding is the use of crowdfunding to produce shared goods and services for communities.”

▽The Emergence of Civic Tech:Investments in a Growing Field …p6
http://www.knightfoundation.org/media/uploads/publication_pdfs/knight-civic-tech.pdf
(※2)
“Civic crowdfunding…Funding for projects that enhance public services and spaces”

▽LOCAL GOOD YOKOHAMA
http://yokohama.localgood.jp/

▽横浜コミュニティデザイン・ラボ 政策デザイン勉強会
http://goo.gl/dNjn6W

(文:宮島真希子)