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オープンガバメント実践紹介

よそ者・若者・バカ者と地域の人で共に創る「鯖江モデル」
~若者の地域活動への参加促進~

 データシティ鯖江を掲げ、行政データを公開する「オープンデータ」に日本の自治体として初めて取り組んだことで注目を浴びている福井県鯖江市。
 地方創生型ソーシャル・イノベーションのモデルケースとして取り上げられる「鯖江市地域活性化プランコンテスト」について、仕掛け人であるエル・コミュニティ代表 竹部 美樹さんにご紹介いただきました。

鯖江市の概要について

 鯖江市は福井県のほぼ中央にあり、北は福井市、南は越前市に隣接した東西約19.2㎞、南北約8.3㎞、面積84.59k㎡の地方都市です。市の中央部には低い丘陵地帯が南北にのび、これに沿って市街地が広がっています。またJR北陸線、私鉄福武線、国道417号が市街地を南北に縦貫し、昭和58年11月に北陸自動車道鯖江インターチェンジが開設、平成7年3月には国道8号の4車線化が実施されるなど交通網の充実が図られています。昭和30年の市制施行時には約4万人であった人口が、都市基盤整備による都市の近代化に加え、地場産業の発展や企業誘致、集団化の実現など商工業の充実により現在では人口約6万9千人の都市へと躍進しています。
 
 鯖江市役所の正規職員数は約400人と、人口当たりの職員数では全国でもトップクラスの少なさですが、牧野市長の強力なリーダーシップのもと少数精鋭体制で行政運営に取り組んでおり、国内製造シェア96%を誇る『眼鏡』、業務用漆器(ホテルやレストラン等で使われる漆器)の製造シェアで全国の80%を超える『越前漆器』、繊維王国といわれる福井の中心的位置を占める『繊維』を三大地場産業とするものづくりのまちとして、また自然を活かした潤いのある人間味の豊かなまちとして、堅実な発展を続けています。

 近年は、データシティ鯖江を掲げ、駅や公民館に公衆無線LANを整備。行政データを公開する「オープンデータ」に日本の自治体として初めて取り組んだことで注目を浴びています。
 また、自分たちのまちは自分たちがつくるという市民主役のまちづくりを進めることを目的として、市民による市民のための「市民主役条例」を施行。
 市民主役の事業の1つ「提案型市民主役事業化制度」は、鯖江市が行っている公共的な事業の中から、市民団体等が「新しい公共」の担い手として行った方が良い事業を「市民主役事業」として創出することで、公共における民間と行政との役割分担を見直し、市民の自治力を高めることを目的として、平成23年度から実施しています。

鯖江市地域活性化プランコンテスト

 「市長をやりませんか?」というキャッチコピーで2008年から開催している鯖江市地域活性化プランコンテスト。これまで8回開催し、今年で9回目になります(2016年9月10日~12日開催)。これまで継続して開催してきたことで、現在では様々な雑誌や本、新聞などで地域活性化モデルの成功例として取り上げていただけるまでになりました。また、平成28年2月7日には政府のまち・ひと・しごと創生本部の下部組織である「地域しごと創生会議」にて地方創生型ソーシャル・イノベーションのモデルケースとして石破大臣や馳大臣の前で発表させていただきました。

 鯖江市地域活性化プランコンテストは、全国の学生に参加者を募り、書類選考・面接選考を通過した24名(3人×8チーム)の学生が鯖江に集結。2泊3日の合宿を行い、その間に鯖江の活性化策を市長になったつもりで考案し、合宿最終日に市長や鯖江商工会議所会頭、福井信用金庫会長や企業、市民の皆さんの前で発表するというものです。「市長をやりませんか?」というキャッチコピーのとおり、学生がそれぞれ鯖江市長になったつもりで活性化案を考えます。
 北海道から九州まで全国各地から学生が参加し、これまでに189名の優秀な学生達が鯖江の活性化プランを提案しています。
(主な大学 ※参加者数の多い順:京都大学 49名、東京大学30名、早稲田大学 29名、慶應義塾大学 28名)。

鯖江市地域活性化プランコンテスト

プラン実現にコミット

 提案されたプランは、机上の空論で終わらせるのではなく実現させることにコミットしており、提案の具現化に向けたプロセスが確立しています。
 鯖江市では提案を企画部局で取りまとめ、その内容に応じて所管の部署に送付します。各部署では提案内容の実現可能性や課題などを精査。その後、政策会議で協議の上、その結果を「具現化検討結果」としてホームページ上で公開しています。
 学生は、市政に生かそうとする行政の意志を汲み、プランを作る上での意欲の向上に繋がっています。
 また、行政だけがプランを実現するのではなく、やりたい人、やりたい団体が実現すればいいというスタンスで、提案内容はオープンになっています。
 学生の提案が実現した例を紹介します。

めがねギネス

めがねギネス

 第1回の地域活性化プランコンテストにおいて提案された「めがねギネス」。「鯖江の産業であるめがねにもっと市民が愛着を持ち、鯖江=めがねになるよう世界発信をしよう。」と、世界中からめがねを2万本以上集めて、めがねを2011メートルつなげる、というギネス世界記録に挑戦し、みごと達成しました。これは、提案した学生が何度も鯖江に通い、市民や眼鏡産業界を巻き込み実現したものです。

ライブラリーカフェtetote(テトテ)

 NPO団体が学生のプランを聞いて思い立ち、鯖江駅の2階にライブラリーカフェを開設したのがライブラリーカフェtetote(テトテ)です。市民公聴会を開くなど市民とブラッシュアップさせながら、新たな鯖江の賑わい拠点施設としてオープンしました。

 このように、これまで10プラン以上が鯖江市や市民団体、地元学生により実現しています。

運営体制について

 運営するにあたりこだわっている事が2点あります。
 1点目は「協創」(産官学金労言)です。
 鯖江市地域活性化プランコンテストは、地元学生、商店街、観光協会、商工会議所、地元企業、そして鯖江市など様々な立場の方と実行委員会形式で運営しています。そうすることで、スムーズな運営に繋がり、学生達を迎え入れる態勢ができ、鯖江のおもてなしを実感してもらうことができます。
 2点目は「地元学生を巻き込む」ことです。
 地域の担い手は地元学生です。まずは地元の学生達を運営スタッフとして迎え入れ、参加学生の熱心さ、アクティブさを間近に見せることによって、自ら動く、活動するきっかけを与えました。
 商店街や商工会議所、観光協会などと共に創る事を意識し、Facebookなどで進捗状況を共有し、実行委員会を開催。様々なアドバイスをもらったり、それぞれができる協力をいただいたりしながらプランコンテストを運営しています。

地域の担い手育成

 鯖江市地域活性化プランコンテストを運営することで刺激を受けた地元学生が「自分達も何かやりたい!」と結成し、2011年より活動している団体が「学生団体with」です。

 私が最も力を入れている事がこの地元学生、学生団体withの育成です。最初の頃は、会議の進め方や情報を発信することの大事さ、そしてプレゼンテーション力、営業の方法など多くのノウハウを指導しましたが、現在は先輩から後輩へ引き継がれているため、それらは”当たり前”となっています。また、地域活動を通して様々なスキルがついており、現在では鯖江市地域活性化プランコンテストの運営も学生が主体的に行っており、協賛を集めるための企業営業もほとんど学生達が行っています。その結果、年々協賛企業や協力企業が増えています。地元の学生が協創の輪を広げてくれています。

鯖江市地域活性化プランコンテスト

 エル・コミュニティが主催していた他の事業も、学生団体withに譲っています。次の世代が育ってきたことで私はとても楽になりました。
 学生団体withの地元学生達にとって、鯖江市地域活性化プラコンテストは起爆剤です。「プランコンテストに参加する都会の学生はこうだから、こうしなければならない」と押し付けるのではなく、自ら気づき、主体的に動くきっかけを与えています。
 様々なきっかけや経験できる場がある都会と違い、地方は大学の数も少なく、あっても郊外に大学がある場合が多いため、学生は大学内に籠ってしまいがちです。いざ就職活動の時になっても、何の経験もしておらず、社会人とメールのやりとりさえしたことのない地方学生は、経験豊富な都会の学生達に敵うはずがありません。また、何のスキルもないまま社会人になったとしても、企業にとっては即戦力になり得ません。
 福井の大学に通っている事がマイナスになってほしくない。そのために、様々な経験ができる「場」、学生達が活躍できるフィールドを鯖江に創ろう、という目的も鯖江市地域活性化プランコンテストにはあります。今や「学生団体with」は、商店街や市役所などからも頼られる存在として共に地域活動を行っています。

鯖江ファン増殖中

 プランコンテスト参加者のOB・OGは、総務省や経済産業省、国土交通省など官公庁に就職している人達も多く、スタッフとなって毎年手伝いに来てくれたり、あちこちで鯖江の事を発信してくれたりと継続して鯖江に関わってくれています。
 また、参加者OBOGからの提案により、2014年からは社会人向けのプランコンテスト「おとな版」鯖江市地域活性化プランコンテストが開催されています。おとな版は公的な機関が運営に関わらず 民間主体で運営しており、学生団体with、NPO法人エル・コミュニティ、そして参加者OBOGで結成されたNPO法人イドバタ(東京)により開催されています。
 おとな版地域活性化プランコンテストは、学生よりも市民で「創る」ことにこだわっています。
 実際に鯖江市でまちおこしに携わっている方が、お題提供者兼チームメイトとして本コンテストに参加します。 お題提供者自身の携わる事業、政策に関する悩みや課題を「お題」として提示し、そのお題に対して全国の社会人がエントリーし共にプランを考案、発表するというものです。学生のプランコンテストより、さらに実現にコミットしているのも特徴です。後日、「さばえ未来会議」という市民を集めてアイデアを出してもらう場を設け、お題提供者を中心に実現に向けて動いていく仕組みが出来ています。
 これまでに実現したプランのうち2プラン紹介します。

こども商店街aKinD’s(アキンズ)

こども商店街aKinD’s(アキンズ)

 こども商店街 aKInD’s(アキンズ)は、鯖江市内の小学生たちがチームを組んで、街なか商店街の店主などから、商売について学び、商店街や地元学生さんたちからのサポートを受けながら、事前研修・準備を経て、企画、提案、製作した商品を子どもたち自らが販売するものです。商売のイロハを学び、街なか商店街の商店主さんや、地元学生さんのサポートを受けながら、自分たちの手で仕入れから販売まで「商い」を実体験。子どもたちには、地域の大人と触れ合いながら、仕事の楽しさ、仲間と力を合わせ、最後まで、やりきる力を身につけて頂くことも目的のひとつです。

鯖江市役所JK課

 全国放送のニュースやインターネットでも話題になったので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、「鯖江市役所JK課」もこのおとな版地域活性化プランコンテストによって実現したプランです。行政に対してもっとも関心が低いと考えられる女子高生が自ら考え、やってみたいまちづくり活動を提案し、市役所をはじめ、大学やメディア、市民団体等と連携して具現化する実験的な新しい市民協働推進プロジェクトです。

オープンデータの活用

 学生の提案プランを受け、行政が出している具現化検討結果はオープンデータになっており、そのデータを元にアプリが作られました (作成者:株式会社jig.jp福野社長)。これまでたくさんのプランが提案されているため、過去どういうプランが出ているのか。毎回参加学生達は過去プランも参考にしながら考案しています。しかし、市のホームページにPDFでアップされているだけですと、読み込むのに大変時間がかかります。アプリになっていると、例えば「眼鏡」と検索すると眼鏡に関するプランだけが表示されるため、どういう内容のプランでどういう結果が出たのかをすぐに調べることができます。
 今後も、より地に足のついた、実現したい!と市民の皆さんが思える説得力のあるプランを考案してもらうために、財政状況や産業の状況などのオープンデータを活用していきたいと思います。

想い

 若者の成長なくして地域の未来はありません。地方であっても、地方にいても、様々な経験ができるフィールドを創っていかなくては若者の流出は止まりません。地域の担い手を育成する。とても時間がかかることですが、客観的な視点を持つことができる「よそ者」、旧来のやり方にとらわれずチャレンジできる「若者」、アイデアマンであり真っすぐ信念を貫ける「バカ者」企業 を巻き込みながら、地域の方と共に若者が成長できる、活躍できるフィールドを創っていきたいと思っています。
 鯖江市地域活性化プランコンテストは、静岡県の三保の松原や茨城県境町など全国各地に広がっています。
 今後も、全国に展開していける地方創生モデルを確立し、鯖江の地にしっかり足をつけながら、より全国に発信、スケールしていきたいと思います。

著者プロフィール

竹部 美樹
東京のITベンチャー企業、新卒採用ブランドコンサルティング企業で働いた後、2008年より鯖江市地域活性化プランコンテストを開催。
2010年より地元鯖江に戻り、地域を担う人材を育成するとともに、若者が活躍するフィールドを鯖江に作るべく地元学生と共に活動。
2015年からはSAPジャパン等賛同企業の支援を受けながら、IT×ものづくりの拠点「Hana道場」を運営。鯖江、日本、そして世界で活躍するITものづくりの担い手育成と、伝統の“ものづくり”と“最先端のIT”を掛けあわせ、イノベーションを起こす場所を創造中。