オープンデータ ユースケースコンテスト 結果報告

 去る2014年2月7日には受賞団体を招いて、受賞式を執り行いました。各団体から改めてアプリケーションの概要をプレゼンテーションいただいたほか、審査委員の福野泰介氏(株式会社jig.jp 代表取締役社長)と花形泰道氏(松江市 政策部政策課 政策統計室長)による講演、審査委員一同によるパネルディスカッション形式での総評などを実施。会場には受賞団体のメンバーだけでなく一般の来場者も多数お越しいただき、オープンデータへの期待の高さが改めてうかがうことができるものとなりました。

主催者挨拶

 開会にあたり主催である経済産業省および総務省よりご挨拶いただきました。経済産業省 商務情報政策局 情報政策課 情報プロジェクト室の和田恭室長は「オープンデータを推進するにあたって政府自身が持つデータを公開することは、もちろん進めていくが、具体的なビジネスに繋げていったり、社会課題を解決していくためには、地方自治体が持つデータを地元企業が活かす必要がある。その連係を作ることが課題であり、このコンテストでそれらの活動を一段高いところに進めていきたい」とコンテストの意義を強調した。そして「今回のコンテストは要件が厳しくしたが受賞者はそれを乗り越えて、自治体と連携して成果を収めた。その努力に感謝申し上げる」と受賞者をたたえた。

 総務省 情報流通行政局 情報流通振興課の杉野貴央係長からは「コンテストでは、データを自ら集め、自治体と交渉するように、あえて厳しい要件を入れた。どのくらい応募していただけるか正直、不安もあったが、最終的に多数の応募があって本当によかった。社会課題を解決するという思いを持ち、解決しようとする人がこんなに多いということ」と、オープンデータのみならず社会参加への意識の高さに感銘を受けていた。

経済産業省・和田室長 総務省・杉野係長

講演

 表彰に先立って、審査委員を務めた福野泰介氏と花形泰道氏による講演が行われました。

 福野氏は「鯖江発!? オープンデータで始まる次世代Webの可能性」と題して、オープンデータとXMLなどのWeb標準技術との関係、そしてそれら地方都市である鯖江にどのような影響を与えているのかを語りました。福野氏が代表取締役を務める株式会社jig.jpは、2003年に創業したソフトウェア会社。フィーチャーフォン時代に「jig browser」というパソコン向けのサイトを携帯電話でも見られるソフトがヒットしたことで成長を遂げた。だが、スマートフォン時代となって新たなビジネスを模索する中で、Web標準技術とオープンデータに出会ったといいます。

「以前、セマンテックWebという概念が話題になりました。セマンテックWebの中心技術はHTMLではなくてRDF。HTMLとRDFの違いはリンクに意味が付いているかどうか。RDFはリンクに意味を付けて、情報を整理することができる。そしてRDFは、Webの主役をブラウザからアプリへと変えるもの」(福野氏)

 今、セマンテックWebが改めて広まろうとしているきっかけこそ、オープンデータだと福野氏は言います。なぜなら、オープンデータを公開するに当たって、理想的なフォーマットがRDFだからです。福野氏はRDFで公開されたオープンデータを「5つ星のオープンデータ」と評し、一方でXMLで公開されたオープンデータは機械可読性はあるものの、リンクに意味が付かないことから「3つ星のオープンデータ」だといいます。そして、RDFでオープンデータを公開することが理想的だが、それが難しいならば、まずはXMLで公開し、その後RDFによる5つ星のオープンデータを目指すべきだと述べました。

 「オープンデータをきっかけにセマンテックWebが広がろうとしている。でも、日本ではデータのインフラが未整備な状態。3つ星のXMLの公開も今の行政にとっては難しい。道路というインフラが未整備では、その上を走る車を作る自動車産業が生まれなかったように、このままでは日本のソフトウェア産業、Web産業に影響があると考えた」(福野氏)

 そこで福野氏は以前から面識があった、出身地である鯖江市の牧野百男市長に直接「鯖江市でオープンデータをやりましょう」と提案しました。その結果、2010年12月に鯖江市として最初のオープンデータが公開されました。それからも鯖江市と福野氏は協調してオープンデータへの取り組みを続け、日本でも有数のオープンデータ都市となり、今回のユースケースコンテストにおいて最も多くデータが利用されるまでになったのです。

 「思った以上に素早い動きでした。でも、日本だけでは意味がない。狙うは世界です。オープンデータのキラーアプリは日本だけでなく世界に広がって行く。逆に日本でキラーアプリが登場しないと、世界の有力なアプリが入って来て日本が負けてしまう」(福野氏)

 福野氏がこれまで見聞きしてきた限りでは、イギリスではオープンデータへの取り組みが進んでいると言われていますが、民間や市民レベルではそれほどでもないと言います。しかし、今回のユースケースコンテストは、民間企業や個人、NPO、そして行政などさまざまな立場の人がチームを組んで応募してきており、それを福野氏は「素晴らしい動き」だと評価しました。そして、「このように立場を越えた緩いつながり」のもとに、利害を超えてひとつの目的のためにアプリを開発する新しい動きが、今後重要になっていく」と講演をまとめました。

福野 泰介氏(株式会社jig.jp) 鯖江市のオープンデータの現状

 続いて登壇した花形氏は「アイデアソンin松江からみえてきたもの ~まちづくり×オープンデータ×共通語彙~」と題して、オープンデータアイデアソンを開催した経験と現在の「まちづくり」における課題をもとに、データに基づく新しい「まちづくり」のあり方について講演しました。

 松江は、オープンソースのコンピュータ言語「Ruby」にゆかりのあることから「Ruby City Matsue」として、Rubyだけでなくさまざまなオープンソース活動を支援してきました。2006年7月には松江駅前に「松江オープンソースラボ」を設置し、オープンソースソフトの研究、開発、交流を支援する場として、数多くのイベントを行ってきました。

 その松江オープンソースラボで、2013年11月26日には今回のユースケースコンテストの一環として経済産業省・総務省が主催で「オープンデータ アイデアソン in 松江」が開催されました。花形氏はこのアイデアソンに松江氏側の担当者として参画したが、従来の「まちづくり」のワークショップとは大きく様子が異なる印象を受けたそうです。

「まちづくりに関するNPOの方も参加していて、その人たちが『これまでのまちづくりワークショップとは参加者が違う』と口を揃えて言われた。ここから新しいまちづくりのアプローチが見えた」(花形氏)

 花形氏は、参加者の違いは、単純にこれまで「サイレントマジョリティ」として見えていなかったのではなく、データやアプリという技術観点のアプローチという「やり方」の問題ではないかと考えました。アイデアソンそしてオープンデータというアプローチによって、いろんな方のいろんなアイデアを聞くことができ、それは今までのまちづくりワークショップとは違う可能性があるものでした。

 この経験から花形氏は、これからのまちづくりには「データはまちづくりの源」「多様性のあるまちづくり」「標準語(共通語彙)の必要性」が必要だと認識するようになったと言います。このアイデアソンでもそうだったように、データは議論やアイデアの基礎となるもの。それなしには、効果的で建設的な議論にはなりません。そして、多様性のあるまちづくりのためは、多様なアイデアが必要ですが、アイデアソンのように従来とは違うアプローチによって、多様なアイデアが生まれてきました。また、さまざまな人が同じ認識を持って議論するためには、共通した語彙が必要になります。

 「オープンデータアイデアソンは、まちづくりワークショップとニアリーイコールですが、アプローチの仕方が違う。従来とは違うアプローチによって、多様性が生まれる」(花形氏)

 そして花形氏は、松江市にとってのオープンデータは「みんながハッピーになるもの」だと協調します。オープンデータを推進するためには、みんなが「良い」と思える成功事例が必要です。そしてオープンデータにとって機械可読性が重要であるように、オープンデータに関して多くの人が理解できる言葉で語ることが普及にとって鍵になるということを強調。また、地方自治体でのIT関連の取り組みは、現場の担当者のモチベーションによって左右されがちなため、誰もが手を出せるようなルールに基づいて作業をルーチン化することが必要だと、いずれも自治体の現場ならでは視点からオープンデータの課題をまとめました。

花形 泰道氏(松江市) アイデアソンin松江から見えてきたもの

パネルディスカッション

 表彰式の最後には審査委員と主催者の皆様によるパネルディスカッション形式での総評を実施しました。

【モデレータ】
  • 国際大学グローバル・コミュニケーションセンター講師/
    Open Knowledge Foundation Japan代表 庄司 昌彦氏(審査委員長)

  • 【パネリスト】
  • Open Knowledge Foundation Japan 藤村 良弘氏
  • 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 准教授 関本 義秀氏
  • 株式会社jig.jp 代表取締役 福野 泰介氏
  • 合同会社Georepublic Japan代表社員/CEO 関 治之氏
  • 松江市政策部政策企画課政策統計室長 花形 泰道氏
  • 浦安市都市整備部市街地開発課主幹・液状化対策推進室長 醍醐 恵二氏
  • 経済産業省 商務情報政策局 情報政策課 情報プロジェクト室長 和田 恭氏
  •  まず庄司委員長は「日本のオープンデータにとって、政府主催のコンテストが開催されたこと自体が大きな出来事であり出発点。思っていた以上に多くの応募があった。最優秀賞の『NGY Night Street Advisor』のように自治体がデータ公開をする呼び水になって、これからの広がりが期待できる」とこのコンテストの意義を語りました。それに続いて経済産業省の和田室長が「国がやることでネームバリューがある。ここが発端になって、さらに他でアプリ開発につながる導火線の役割になれば良い」と政府主催であることの意義を語り、さらに「この場で確約はできないが、次回があるならもっと上手くやりたい」と継続に向けた意志も示しました。

     福野委員からは「正直なところ、今はまだビジネスからは遠いが、突破口を作る意味はあった。オープンデータがないところで、ビジネス化に多くの人が苦労している。だが、先にやった人が勝つのもビジネスの鉄則。今回の受賞作品のような事例がオープンデータを広め、ビジネスも加速していく」と、期待の弁を語りました。

     浦安市の醍醐委員は行政の立場から「審査していて、下水道や地下埋設物、街路灯など、どちらかというとまだあまりオープンにされていないデータに大きなニーズがあることがわかった。受賞作品の中には、このコンテスト限りということで自治体からデータを題してもらっているものもある。このコンテストによって、まだオープンではないデータの有用性が示すことができた」と、コンテストが行政側の意識改革につながる点を高く評価しました。

     同じく自治体の立場からは松江市の花形委員が「新しい産業を創出するという観点から、ビジネス化を目指す人たちと自治体とが協力してやっていきたい。多くの自治体でマンパワーが足りずデータを出せていないが、目指すものが明確ならば自治体側も出していこうという気になる。民間と自治体が一緒にやることで、必要なデータが必要なタイミングで出せる」と、民間からの声に対して行政側も応えていく意志があることを明確に示しました。

    右から庄司委員長、藤村委員 右から関本委員、福野委員、関委員

     また、関委員からは「世界でも、ビジネス創出にはあと一歩必要というのは同じ状況にある。コンテストはシードを生み出しても、ビジネスとしてインキュベーションするには別の何かが必要。ビジネス化には壁がある。例えば『AED SOS』のビジネス化の課題を聞きたい」と、受賞者に話題を振ると、Team AED SOSの玄正慎氏が「ビジネス化について短期的には難しい。長期的には、自治体にシステムを提供することで、維持管理について少額のお金をもらえないかと考えている。自治体にとっては市民に普及することで、助かる人が増えるというメリットがある」とビジネス化の展望を語りました。

     藤村委員からは「民間が行政にデータ公開を働き掛けることが大切。官と民がどうやって手を携えていくのか、新しい方法を模索している。今回の試みは、ヒントやチャンスにつながっている」と、オープンデータの推進には民と官の協力が不可欠だという認識を示しました。さらにオープンデータに関連したさまざまなイベントが増えていることに対して「私は良いことだと思う。データが公開され、それをどう活用するのか考えるクセ付けになる。そうやって多くのデータが使われて、いくつも課題が解決した先に、新しい価値創造がある」と考えを述べました。

     ビジネスという観点から「どんなプランを考えているのか」庄司委員長から優秀賞『東海道中ぶらり旅』のチーム よこはまに対して尋ねたところ「まず、その地域でお金が回ることが必要。単純にオープンデータをアプリにして、そこに役所がお金を出すのではなく、アプリを中心として外からお金を集める流れを作れないか。そのための仕掛けを今、横浜市と相談を始めている」と、具体化に向けて動き出しているとの報告があり、会場からは期待を込めた拍手が上がりました。

     アプリやサービスの開発という観点から関本委員が「学生を巻き込んで教育面から裾野を広げることが必要。うちの学生にも、最優秀賞の明石高専の松田さんに負けないように取り組んでほしいと思った」と学生のさらなる活躍に期待を述べました。さらに「コンテストでデータが利用された自治体に対して、経済産業省と総務省から直接お礼行脚して欲しい。そうすることで、市長などのオープンデータへの意識が変わる」と発言すると、それに対して醍醐氏からも「『NGY Night Street Advisor』は政策立案の点から見ても素晴らしい。地元自治体にプレゼンして欲しい」と自治体へのアプローチの重要性を強調する意見が出ました。

     一方で関委員からは「継続していくために重要なのはコミュニティ作り。そのために楽しさが大事。そのためにはこのコンテストをお祭りのように、そこに向けて目標となるようなものにしたい」と草の根でオープンデータが盛り上がるための問題意識が示されました。さらに、そうした観点から、審査員特別賞の理研豊田研究室『LinkData.org』に対して「コミュニティを生み出すためのプラットフォームとして、さらに進化していって欲しい」と期待を述べました。

     最後に庄司委員長から「いろんな立場の人が参加した今回のコンテストは面白かった。これを祭にして、広げて、続けていくことが大事」と継続の重要さが重ねて強調されました。そして「オープンデータは海外から入って来たものだけど、地域の課題を自分たちの足で見つけ、自分たちでツールを作っていくことで、地域の現状に根ざしたものになってきた。地に足の付いた活動を伸ばしていきたい」と、オープンデータによる地域活性化が具体的に動き出しつつある現状と、さらなる発展をアピールしてまとめの言葉としました。

    右から花形委員、醍醐委員、和田室長 パネルディスカッションの様子

    問い合わせ先

  • ご不明な点等ございましたら、オープンデータ・コンテスト事務局(od-tokyo[at]tower.jipdec.or.jp)までお問い合わせください。